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ジュエリー界を導く、エーアンドエスの今とこれから
代表取締役社長 稲瀬 修
創設以来、固定観念にとらわれない柔軟な発想と、新鮮な視点で、イノベーションを重ねてきたエーアンドエス。2025年4月に、サザビーリーグから分社化し、新たなフェーズを迎えています。今、エーアンドエスが描くジュエリーの新しい未来とは?代表就任から5年目を迎えるエーアンドエス代表の稲瀬修が語ります。

代表取締役社長 稲瀬 修
2006年にサザビーリーグ入社。アガット営業担当、ノジェスのブランドマネジャーなどを経験し、2021年、カンパニープレジデントに就任。「現場第一主義」を掲げ、国内の路面店戦略を進めるとともに、海外進出にも積極的に取り組む。
時代の流れを反映するブランド。可能性を広げてきたエーアンドエス。
1990年、サザビーリーグのアクセサリー部門として誕生したことに始まる、エーアンドエスの会社設立の背景をお聞かせください。
サザビーリーグは、「リーグ」と名のつく通り、さまざまな分野のスペシャリティ溢れるチームが集う、まさにメジャーリーグのような企業グループです。エーアンドエスもそんなチームのひとつとして、ジュエリー部門を確立してきました。2025年4月より分社化し、株式会社エーアンドエスとしてスタート。市場環境や価値観の多様化など、変化が目まぐるしい中、それぞれの事業(or専門)分野でスピード感をもって事業成長させていきたい、という想いがあります。
女性のファッションや生き方など、時代の流れを映しながら、常に新しいジュエリーを提案してきたエーアンドエス。現在展開するブランドについて教えてください。
まず、エーアンドエスを語る上で欠かせないのがagete(アガット)です。1990年のブランド誕生当時は、ジュエリーといえば、男性が女性に贈るものであり、売上の大半をギフト需要が占めていました。一方、世の中では女性の社会進出が進み始めた頃。そんな中で、アガットは、女性が自分のために自分で買う、自家需要のブランドとしての立ち位置を築いていったのです。
アガットが軌道に乗るなかで新たに生まれたのが、NOJESS(ノジェス)です。ジュエリーの自家需要が広がってきたとはいえ、シーズンファッションとしての優先順位はまだまだ低かった。そこで、ジュエリーも服や靴と同じように楽しめるようなものにしたいと、ノジェスは、カジュアルでファンシーなアイテムと服飾雑貨を提案。それが見事にドライブし、たちまち人気ブランドとなりました。
ノジェスがアガットの妹分ならば、2008年に誕生したBELLESIORA(ベルシオラ)は、お姉さん的存在。エーアンドエス初の大人の女性に向けた、ファインなジュエリーブランドとして、新たなファンを獲得しています。
2023年に立ち上げたLAMBDA(ラムダ)は、近年の、男性のジュエリー需要の増加も踏まえ、「ジェンダーレス」をテーマにしたブランドだとか。
ラムダのジュエリーは、チェーンの長さを変えたり、パーツをつなげたりして自由自在にカスタマイズできるのが特徴です。女性用、男性用といったセグメントや、固定観念を取っ払った、今までにないジュエリーブランドを作りたいという想いがありました。もっと誰もが自由にジュエリーやファッションを楽しめるように。そんな可能性を広げてくれるブランドになると期待しています。

エーアンドエス代表になって5年。大切にするのは「現場の力」。
稲瀬さんが、エーアンドエスの代表となるまでの経緯を教えてください。
もともと洋服が好きだったこともあり、大学卒業後はアパレル企業に就職しました。ところが、配属されたのはジュエリー部門。正直すぐに辞めようと考えていたのですが、ジュエリーの持つビジネスの可能性に気づいて、のめり込んでいきました。
ジュエリーというのは、洋服に比べて製品自体が小さく、運送のコストも、販売に必要なスペースも非常にミニマムなんです。にも関わらず、洋服と同等の売り上げを作ることができる。「これは面白い」と思ったんです。このジュエリーのビジネスモデルをより探求したいという思いで入社したのが、当時、アガットが絶好調だったサザビーリーグでした。
これまでギフト需要で成り立っていた多くのブランドとは異なるアプローチ「自家需要」によって時代を変えようとしていたアガットは、業界内でも脅威の存在でした。そんなアガットの営業に入社し、新規ブランドの責任者やノジェスの部長などを経験して、気づけば20年。自分がこのポジションに立つなんて、全く想像もしていませんでした。
稲瀬さんが代表として大切にされていることをお聞かせください。
大切にしていることは、「現場の力を引き出す」ということです。エーアンドエスのブランドは、圧倒的に店舗の売上が大きく、ECやAIが発達しているこの時代にあっても、お店に足を運んで商品を購入することに、意味を感じていただいています。それを考えると、やはり現場を第一に、あらゆる仕組みを作っていく必要があるのです。そこで、ジュエリーアドバイザーが働きやすい環境作りはもちろん、店舗を支える本部は「サポートオフィス」と呼んでいて、みんな現場のサポーターであるという意識で、日々現場のために働いています。

柔軟な発想で起こすイノベーション。エーアンドエスが大切にすること
エーアンドエスのバリュー「ALL FOR FANs」は、まさにそんな「現場第一」の想いが反映されていますね。
「エーアンドエスの強みはなんですか?」と聞かれたときに、一番に答えるのは「社員の力」です。エーアンドエスの社員のみんなは、とにかく自社のブランドを愛している。「ファン」というのは、お客様だけではなく、社員のことも指しています。社員みんなにモチベーションとやりがいを感じ続けてもらえることが、ひいてはブランドの力になり、お客様の喜びにもつながると考えています。
エーアンドエスのミッション「固定観念にとらわれない。自由な発想で新しいモノ・コトを創造する」に込めた想いについてお聞かせください。
長年、さまざまなブランドを通してものづくりに関わってきましたが、やはり世の中にないものをゼロから生み出すというのは、とても難しいことだと感じます。そこで大切なのが、柔軟な発想です。既にあるものでも、何かを足したり、あるいは引いたりすることで、全く新しい価値が生まれることがある。まさにイノベーションです。
そのひとつにアガットのチャームがあります。かつてネックレスやブレスレットは、チャームとチェーンの一体型が基本だったのですが、アガットでは、チャームを別売りし、お客様は好みのものを選んで、コーディネートを楽しめるようにしています。ヒントになったのは、ロンドンのポートベローで見かける、アンティークのチャームでした。まさに「自家需要」の火付け役となったのです。
もうひとつのイノベーションとして、素材があります。1990年代、シルバーのジュエリーは1万円台、ゴールドで3万円台が相場でした。しかし、アガットが狙ったのは、その間の2万円台。そこで目をつけたのが、素材でした。当時、ゴールドといえば18Kがメインだった中、新しい価値提供として10Kのアイテムを大きく打ち出したのです。また、現在では5Kのアイテムも新たに展開しています。
そうしたイノベーションの積み重ねが、いまのエーアンドエスの成長につながっているのですね。
いずれもゼロから新たな価値を生み出したわけではなく、視点を変え、元々あったものに力を見出したことが、大きな転換点となりました。そしてこれは、エーアンドエスが大切にする「小さな存在(チカラ)で、輝く明日(ミライ)を」という言葉にもつながる考えだと思っています。
やれることからひとつずつ。
まずは、僕らが示していく
「経営方針」と「責任ある事業方針」を新たに策定されました。その理由についてお聞かせください。
この時代に、SDGsをはじめ、サステナブルの観点がない企業は戦えないと思っています。特に、天然の素材を使用して作るジュエリーは、環境や労働の問題と切っても切れない関係にあります。その中で、僕らはトレーサビリティの向上や、信用できる取引先との関係性づくりに力を注いできました。
そうした中で、まずは僕らが企業としての透明性を示していくことが、重要だと考えています。「経営方針」と「責任ある事業方針」に書かれていることは、すべて“当たり前のこと”ですが、改めて掲げたことで、社員一人ひとりの意識は、大きく変わったと感じています。これまではプロジェクトとして活動していた組織が、「サスティナビリティ課」という正式な部署として立ち上がり、これまで以上に積極的に活動する姿勢を目にして、心強く感じています。
今後、会社として、社会や地域、環境のために取り組みたいと考えていることはありますか?
エーアンドエスは、お客様も社員も、女性が圧倒的に多いことから啓発の一環として「ピンクリボン運動」に参加しています。ただ、今後ますます多様性の時代となっていくなかで、より広い視野での支援先を考えていく必要があると考えています。
また、高松や広島といった地方の路面店も増えている中で、社会や地域との連帯、共生も課題のひとつです。一例ですが、青山本店では、国連の定める「World Cleanup Day」に、クリーンアップ活動を行っています。こうした活動はまだまだこれからですが、やれることから一つひとつ取り組んでいきたいと思っています。

その人の歴史を映す、ジュエリーの魅力。国を超えて伝えていきたい
稲瀬さんは、日本のジュエリー業界の可能性をどのように見ていますか?
海外へマーケットリサーチに行くたび感じるのが、日本人は、本当にジュエリーが好きだということです。電車に乗っていても、ふと見渡せば、ジュエリーを身につけている人が何人もいる。その背景としては、やはり、百貨店の一階にあれだけの規模のジュエリー売り場があるということが大きいと思うんです。日本は、ジュエリーを売るということに関して、恵まれた環境だと感じますし、まだまだ可能性は高いと考えています。
一方、エーアンドエスは「アジアを代表するファッションジュエリーのリーディングカンパニー・ブランドになる」をビジョンに掲げ、海外展開も進めています。今後についてお聞かせください。
これまでも中国や台湾で事業を展開してきましたが、2025年からは、さらに海外でのブランディングを推進し、タイや韓国など、他の国々への市場拡大にチャレンジしたいとも考えています。目指すは、「one agete one world」。より積極的に、国を超えたブランドファンを増やしていきたいと考えています。
稲瀬さんにとって、ジュエリーの魅力とはどんなところにあると思いますか?
僕は、「時の流れを感じさせてくれる」ことだと思っています。昔に買ったジュエリーを見ると、それを買ったときの思い出が蘇ってくることって、ありませんか? たとえば、その頃よく聴いていた音楽や、流行っていたファッション、好きだった人のこと…。ジュエリーには、その人の時の流れ、つまり人生が詰まっているんですよね。ジュエリーは、そんな誰かの特別な存在になっていくものなのだということを、忘れずにいたいですね。