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6歳で魅入られた。鑑別士が想う、石の魅力
6歳で魅入られた。鑑別士が想う、石の魅力

天然石が紡ぐストーリー

6歳で魅入られた。
鑑別士が想う、石の魅力

幼少期の天然石との出会いをきっかけに、その奥深い世界の虜となったという宝石鑑別士。日々さまざまな石と「対話」をしている彼が、人生を捧げるほどに魅せられた、天然石の魅力とは? その偏愛ぶりを語っていただきました。

6歳で魅入られた。鑑別士が想う、石の魅力

天然石が紡ぐストーリー

6歳で魅入られた。鑑別士が想う、石の魅力

鑑定は、宝石との対話

私たちがジュエリーとして出会う天然石は、鉱物や岩石とも呼ばれ、自然の中で何千年、何億年という長い年月をかけて形成されます。例えば、水晶で数千年、1カラットのダイヤモンドができるのには、数億年以上もの時間がかかるんです。

人工的に作ることができる合成石の中には、数ヶ月で作れるものもあるので、自然が長い歳月をかけて生み出したという事実に、天然石の価値がありますね。

同時に、天然石は地中のマグマや熱水に含まれる元素が結晶化することでできる、温度や圧力などの条件が揃わなければできない偶然の産物とも言える。

宝石の検査は、鑑定(グレーディング)と鑑別の大きく2種類の仕事に分けられます。
一つは、鑑定(グレーディング)はダイヤモンドの品質(グレード)を見極める仕事。あらかじめ決められた基準に基づいて、測定や検査を行い、グレードを決めていきます。

二つ目は、鑑別の仕事はダイヤモンドやルビーサファイアなどの色石(カラーストーン)と、琥珀やサンゴなどの有機物などを検査して、その素材の天然・合成・処理を判断する仕事です。

世界中に合成石が広がっている今、石が天然であるかどうかはジュエリーの価値に大きく影響を与えます。その判断基準のひとつとなるのが、石の内包物、インクルージョン。

一見クリアに見える宝石でも顕微鏡でよく見ると、何かしらインクルージョンやクラックがあることが多いです。そうした自然の痕跡から天然なのかを判断できます。

鑑別・鑑定の仕事は、「宝石との対話」だと言えますね。

天然石は産地や環境、条件によって、さまざまな表情・色・形をしています。顕微鏡を通してじっくり観察しながら、スリランカでできたのかな? それともマダガスカルかな? と、まるで対話するようにその石が辿ってきたストーリーを想像しては、ときめいています。

 

幼少期の出会いからたどり着いた、天然石の神秘

天然石に魅せられたのは、6歳のときでした。

家族旅行で訪れた北海道のメノウ海岸で、小さなメノウの石を拾ったことが、私と天然石の最初の出会いでした。その後、中学生になって行った、池袋東急ハンズの宝石鉱物コーナーで色とりどりの天然石が並んでいるのを見て、体中が熱くなった記憶があります。まさに恋に落ちたような感覚でした。

大学では金属鉱床学を学び、山に籠っては鉱物がどのように形成されるのかを研究して、それまで「きれいなもの」という興味対象でしかなかった天然石が、どのようにできるのかを学ぶなかで、自然と石の関係性をより深く考えるようになりました。

自分の足で山を歩き、鉱物を目で見て、触って、研究を続ける中で理解したのは、目の前に広がる雄大な自然や石を作り出した現象と、顕微鏡で見る石一つひとつの小さな世界が、矛盾なく関わり合い、形成されているということ。この石がここにあるのは偶然じゃない。

さまざまな条件が重なって『必然としてここにあるのだ』ということに、神秘性を感じました。

 

同じものはひとつもない。色も形も、無数に広がる

天然石の面白さのひとつに「同じ鉱物なのに、さまざまな宝石がある」点があります。

一口に天然石(宝石)と言っても、代表的なものだけでも50~100種類ほど、さらにレアストーンと呼ばれる珍しい石を含めれば400~500種類以上にものぼると言われます。そうした鉱物は組成や構造から分類されるのですが、同じ鉱物でも色や透明度、インクルージョンなどによって見た目はさまざま。ひとつの鉱物に対して、いろいろな宝石名がつけられることもあります。

例えば、シリカと酸素からできる水晶は、鉱物名が石英(クォーツ)ですが、無色透明なものはロッククリスタルと呼ばれ、紫色をしたものはアメジスト、緑色のグリーンクォーツや、黄色をしたシトリンなど、同じ水晶(石英)でもさまざまな宝石名があるのです。

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『水晶に始まり、水晶に終わる』という言葉があるほど、水晶は奥が深い石。おそらく多くの人が最初に出会う宝石が、六角柱状の透明な水晶ではないでしょうか。それをきっかけに天然石の世界に惹かれる人も少なくありません。そうすると、エメラルドやルビー、サファイアなどいろんな色石を集めるようになる。それでも最終的には、こんなにも多様な表情を持つ宝石は他にないと、水晶に戻るという人が多いんです。

縞模様やインクルージョンがまるで風景画のように見える、ランドスケープアゲートや、石に入り込んだ鉄鉱物が虹のように反射するファイアアゲート、木や珊瑚、貝などが石英化してできた石まで。あらゆる個性を持った水晶(石英)と、その数だけの魅力があるのです。

 

人生にちょっとした幸せをくれる。天然石ジュエリーの価値

一つひとつが異なる表情を持った天然石は「人間と同じ」。

人間一人ひとりに個性があるように、天然石も一つひとつ違うからこそ惹きつけられます。また、すべてが完璧ではないからこそ魅力的だと思うんです。宝石の価値という観点で見れば、よくないものとされがちなインクルージョンやクラックですが、それこそが自然物である証。そう思うと、より特別なものに感じられます。

人は、その完璧ではない美しさの中に、自然とのつながりを求めているのではないでしょうか。

天然石は、人が磨くことによってより洗練され、キラキラと美しく輝きます。人間は、はるか昔から天然石の魅力をいかに引き出すか、挑戦を続けてきました。私たちは、天然石一つひとつの個性に美を見出し、それを活かすことができるのです。

そして、ただ美しいだけじゃない、天然石の価値に対する理解を広げることは、資源や地球を守ることにもつながります。

天然石は、自然が長い年月をかけて生み出す限りある資源。そのため、一度採掘するとそこでは二度と採れなくなることがあります。また採掘によって、自然環境に負荷をかけてしまうことも。そうしたなかで私たちができることは、一つひとつの石を大切に扱っていくことではないでしょうか。

天然石は年月が経っても劣化しないのが魅力。大切なジュエリーを代々引き継いでいくことも、大きな意味があるのです。

天然石ジュエリーは、必ずしも生活には必要ないかもしれません。

でも、あった方がきっと心の中にゆとりとか、ちょっとした幸せをもたらしてくれる。色も形も輝きも違う天然石だからこそ、その楽しみ方も人それぞれ。自分はこれがいいというのを見つけたら、ぜひ気軽に触れていただき、気に入ったものは大切にしていただきたいです。

自分に合った、自分を輝かせてくれる“ひとつ”を見つけていくことが、天然石の大きな魅力ではないでしょうか。

協力:ダイアモンドグレーディングラボラトリー